Danny Weber
11:55 02-12-2025
© E. Vartanyan
インド通信省が全スマホにSanchar Saathiを削除不可で義務化、既存端末にも更新配信。履行期限は90日。Appleは初期設定で任意提示を求め交渉中。暗号化メッセンジャーのIMSI紐付け要請も浮上し、全国的な追跡拡大とプライバシー侵害への懸念が高まる。成長市場と生産拠点を抱えるAppleの戦略にも影響。
インド当局は、Appleを含むスマートフォン各社に対し、国営の「Sanchar Saathi」アプリを新規出荷端末すべてにプリインストールするよう命じた。ユーザーはこのアプリを削除できない。さらに、すでに販売済みの端末にもソフトウェア更新を通じて配信される。
この決定は11月28日に通信省(DoT)が下したもので、ロイターが報じた。各社には90日間の履行期限が設けられている。文書は本来非公開で、メーカー各社には機密扱いで送付されたという。
政府の公式な理由は、利用者の安全性を高め、盗難端末の所在特定を支援するためとしている。とはいえ、実態としては全国規模でスマートフォンの追跡が可能になる余地を広げるもので、プライバシーへの懸念が強まるのは避けがたい。利便性と安全の名の下に監視の網が広がることへの警戒は、ここでも無視できない。
同時に、Indian Expressは、DoTがエンドツーエンドで暗号化されたメッセンジャーに対し、ユーザーのアカウントをSIMカード固有のIMSI番号にひも付けるよう求めていると伝えた。インドではSIMカードの購入に政府発行の身分証が必須のため、当局はあらゆるメッセンジャー利用者の身元を割り出せることになる。
関係者によれば、Appleはこの措置に異議を唱え、たとえば初期設定時に選択式で提示するなど、インストールを任意とする妥協案を模索している。交渉が決裂すれば、同社は従わざるを得なくなる。
賭け金の大きさは明白だ。インドは成長が著しい巨大市場であるだけでなく、Appleにとって重要な生産拠点でもある。拒否は実質的に市場撤退を意味し、現実的な選択肢とは言い難い。この義務化は、安心・安全とプライバシーの境界線をどこに引くべきかという議論に、あらためて火をつけるだろう。