SPhotonixの5Dメモリークリスタルが拓く、ガラス製コールドストレージの実用化

Danny Weber

08:39 16-12-2025

© SPhotonix

SPhotonixの5Dメモリークリスタルは石英ガラスに情報を5次元記録。1枚360TB、最大138億年保持、電力不要。現状4/30MB/sだが500MB/sを目標に、データセンターへライセンス統合を狙う。アーカイブ/バックアップ向け。書込装置約3万ドル、リーダー約6千ドル。約1年半でモバイル版登場予定。

英国のスタートアップSPhotonixは、「5Dメモリークリスタル」を使ったデータ保存技術が、研究室のデモ段階を抜けて実用の射程に入ってきたと説明する。同社は今後2年でパイロットプロジェクトを立ち上げ、ガラスを用いたコールドストレージをデータセンターに持ち込む計画だ。

中核となるのは直径約5インチ(127mm)の石英ガラス製ディスク。フェムト秒レーザーでガラス内部にナノ構造を刻み込み、三次元の座標に加え、各構造の配向と強度という合計5つのパラメーターで情報を符号化する。読み出しは偏光を使った光学式だ。SPhotonixによれば、1枚で最大360テラバイトを収容でき、媒体は最大138億年、つまり宇宙の年齢に匹敵する期間データを保持し得るという。もし実験室の外でも実証されれば、「長期保存」の意味合いを塗り替えるだろう。

この媒体は保持に電力を要さず、設計上エアギャップが前提のため、数秒のアクセス遅延が許容されるアーカイブやバックアップの保管庫に向く。一方で現行プロトタイプの速度は従来方式に及ばない。書き込みは毎秒約4メガバイト、読み出しは最大で毎秒30メガバイト程度だ。ロードマップでは3〜4年で最大毎秒500メガバイトまで引き上げる目標を掲げる。いまは控えめな数値でも、深い階層のコールドストレージでは耐久性と密度がものを言う場面が多い。

初期段階のハードウェア価格は、書き込み装置が約3万ドル、読み出し装置が約6千ドルと見積もられている。研究室の外で使える最初のモバイルリーダーは、およそ1年半後の登場を見込む。SPhotonixは約450万ドルを調達しており、実環境での試験を含む次の技術成熟段階に向けて取り組んでいる。世紀単位の耐久性をうたうストレージにとって、ここをクリアできるかは正念場だ。

代替の非磁気系アーカイブ媒体への関心は高まっている。MicrosoftはProject Silicaでガラス記録を試行し、他社もロボットライブラリー向けのセラミック媒体を前進させている。SPhotonixの打ち手は戦略的だ。同社は自前のストレージサービスを構築するのではなく、技術をライセンスして既存のデータセンターに統合する方針をとる。性能目標を満たせるなら、導入の敷居を下げる現実的な賭けになりそうだ。