AIが引き起こすDRAM“スーパーサイクル”でメモリ不足—PCとゲーミングへの影響と対策

2025年後半、PC市場はおおむね安定して見えた。新しいCPUやGPUは着実に出回り、性能は右肩上がり、ゲーミング機への関心も健在だった。ところが第4四半期が近づくにつれ、景色は一変する。今回は暗号資産ブームでもパンデミックでもない。加速する人工知能の伸長が引き金になった。業界はDRAMの“スーパーサイクル”に突入し、システムメモリの広範な品薄と値上がりが現実となり、その負担はゲーマーに真正面からのしかかっている。

AIがメモリを飲み込む理由

最新のAIモデルは巨大な計算資源を要する。データの処理と保持には、高速なHBMを積んだアクセラレータが不可欠だ。このHBMこそが、DRAM生産能力を最も食う存在になっている。HBMの1ビットを作るには、標準的なDDR5の1ビットに比べておよそ3倍のシリコンウェハーを必要とし、複雑なパッケージングのせいで良品歩留まりも下がる。

SamsungやSK hynixといったメモリ各社にとって、HBMはコンシューマ向けRAMより利益率が高い。AI企業との契約価格は上がり続け、需要は安定して供給を上回る。その帰結として、生産ラインはHBMやHBM3E、次のHBM4へと次々に振り向けられ、コンシューマ向けDDRは手薄になる。

データセンターが追い打ちをかける

HBMだけではない。データセンターは帯域のボトルネックを和らげるため、DDR5のRDIMMサーバーメモリや専用モジュールも買い集めている。AIクラスタの増設規模はあまりに大きく、アナリストの試算では早ければ2026年にAI向けが世界のDRAM生産の最大2割を占める可能性があるという。当然、PCやノート、ゲーミング機に回る分はそのぶん目減りする。

PCメーカーは値上げに踏み切る

供給制約により、各社は価格戦略の見直しを迫られている。大手ブランドも在庫を盾に据え置くのは限界だ。報道によれば、Dellはとくに大容量メモリ構成で大幅な値上げを準備している。32GB、ましてや128GBを積むシステムでは数百ドル規模の上げ幅が“新常態”になりつつある。ASUSやAcerも同様の動きで、Frameworkのような小規模ブランドでさえ、アップグレード費用の上振れを前提に計画を組み始めている。

システムインテグレーターの見立てでは、2026年はさらに厳しくなる恐れがある。メーカーは値上げ幅を抑えようとするものの、打ち手の余白は急速に小さくなっている。

ゲーマーへの影響

一般ユーザーやゲーマーにとって、DRAM不足は望ましくない副作用をいくつも連れてくる。第一に、新しいデスクトップやノートが高くなる。第二に、ベース仕様の引き締めが進み、最近は標準化していた16GBから8GBへと戻すメーカーが出てくるかもしれない。第三に、新製品の発売が遅れたり、プレミアム機のラインアップが絞り込まれたりする可能性もある。

アナリストは、メモリ価格の上昇が今後1年でPC出荷を約5%押し下げ、市場の重しとして働くと見込んでいる。

今、メモリを増設すべきか

不足局面でまず心に留めたいのは、慌てないことだ。すでに8GBや16GBで安定して動いているなら、今の価格で拙速に増設する合理性は薄い。多くのゲーム用途では、割高なモジュールに飛びつくより、数カ月様子を見るほうが理にかなう。

皮肉なことに、今は自作より完成品のほうが割安に感じられる場面もある。大手OEMの販売価格には、メモリ逼迫の度合いがまだ完全には織り込まれていないからだ。もう一つの選択肢はDDR4やDDR5の中古市場。GPUと違ってRAMは劣化しにくい部品だが、大幅な値引きはあまり期待できない。